4-2

僕は彼女の後ろについて歩いてバーカウンターの隣にある階段を登り、VIPルームに案内された。
ドアを開けると部屋の中は畳の匂いが充満していて、大麻だとすぐわかった。
部屋は壁に沿ったL字のソファが置かれ、メガネをかけた黒いシャツの痩せた男が居た。
その黒シャツは服の上からでも体格は引き締まっている事がわかり、髪を上で留めた女の肩を抱き、少し離れたその奥に体格のいい色黒で単髪の男、隣に長い黒髪の女が座って話をしていた。
痩せた男がこちらを見て、僕を案内した女が応える。
「今日の友達よ。」
女が仲間に言うと4人の視線が僕に集まる。
「紹介するから名前を教えて。」 女に聞かれる。
「ゆうと。」とだけ答える。
すると女は、
「あたしはナオ。その黒いシャツを着てる男はタツヤ、肩を抱かれているのはヒトミ。 その隣がケン、髪の長い彼女はミミよ。」
僕は4人に、
「初めまして、この部屋はいい匂いだ。」と微笑みかけながら挨拶をした。
すると黒いシャツの男は何の表情を浮かべずこちらの方へ、「ふーっ」と煙を吐き、何も言わず手を伸ばして手にある巻きタバコを僕に差し出した。
男が色白なのが差し出す腕から解った。 顔は向けず目だけが不気味にこちら見ている。
口元の気分は良さそうだが、目は切れそうに冷たかった。必要な事意外は言わないタイプだろう。
僕は手を伸ばしてタバコを受け取り、口元に運ぶ。その間をお互い目を外さなかった。
この男が僕の少しの動作と表情の動きから感情を読み取ろうとしているのだろう。
この目は俺はまだお前を信用していないと語っている。
それに応えるように僕はそれに口をつけてゆっくりと息を大きく吸い込んだ。タバコの先がバチバチと赤く光り、僕は頭を後ろにのけぞらせ、5秒くらい肺に煙を溜め込んでから大きく上に煙を吐いた。
タツヤが僕の顔を見て、「ヒューッ」と声を上げ仲間に笑いかけ、他3人も笑っている。

そのタバコは色黒のいかついケン、隣のミミ、ヒトミ、ナオの順に渡る。ケンとミミはキスをしていた。
二人の唇は合わさっていない。 2人は顔を近づけ、ケンは両手の平で自分の口にトンネルをつくり、大麻を吸ったミミが煙が漏れないようにケンの手に口を合わせ、ゆっくりとケンの口に向かって吸った煙を吐いている。水中で酸素ボンベがなくなってしまったダイバー達が酸素を交換するように。

音が弱くなったVIPルームでその様子を見ていた。
タツヤがこっちに来て座れと手招きする。 僕は彼の隣に座り、空いたグラスにグラスにウィスキーを注がれた。
ヒトミが自分のグラスを持って僕の隣に腰掛ける。ニコニコと笑う女だ。僕はタツヤとヒトミにグラスを合わせた。 ヒトミの目がトロンとして、
「あなたとは仲良くなれそうな気がする。隣の二人は気にしないで。あたしたちはまともだから。」
と、大きく笑いながらウィスキーのボトルを取って口をつけて勢いよく喉に流し込み、口から離すと同時に床に零した。
リンゴが蝶の形に切られた柄のTシャツにウィスキーがよく染まる。
「巻けよ。」 タツヤにそう言われ、小さな袋に入った大麻を渡された。
「紙がない。」と 僕は言う。
タツヤは何も言わず長い巻きタバコ用の紙を僕に投げ、それがテーブルにはじかれて床に落ちた。
僕は黙ってそれを拾い、自分のマルボロを一本取り出し、テーブルにあったクラブのフライヤーを一枚取り、その上にタバコの中身を全て出した。
それに渡された大麻を親指と人差し指で挟みんで擦り、細かく砕きながら混ぜ合わせる。タバコのボックスの厚紙をちぎって丸めてフィルターを造り、それをペーパーの端に乗せ、その隣のペーパーのおり線を中心に混ぜ合せたモノを丁寧に並べる。それらを集中してペーパーの下から指で挟み込み、丸く棒状に伸ばしていく。指で挟まれたものは密度を上げながら徐々に固い筒状になっていく。 ペーパーのノリしろに舌の先で舐めるように唾液をつけ、
それをクルクルと巻きつけて一本のタバコにした。 フィルターの反対側の余った紙を丸めて出口を塞ぎ、フィルター側を下にしてトントンとテーブルに叩きつけ、密度をフィルターの方へ下げてタバコを硬くする。出口を塞いだ方の紙をねじって圧縮し、一本のタバコになった。
それを手に取り指で挟み、フィルターから2、3度指を抜く。
刀を研いだ後にその刃を点検するように。
そして僕はそれを口にくわえ、 出口を塞いだ余分な紙の部分をライターで火をつけ、息を吸いこんでその部分だけ灰皿に焼き落とす。
その芸術的とも言える作品をタツヤに渡した。
すると僕の隣に座ったナミが、「へぇ、手で奇麗に巻く人初めて見た!」
明るい声で興味を示して言う。 タツヤはそれを指にはさんでじっと見ている。機械で巻いたようにタバコは真っ直ぐに、動物の長い牙のように伸びている。
タツヤは口の端を上げながら言った。
「お前オランダにでも居たのか?」タツヤは僕を見てニヤついている。
「いや、フランスだ。」 タツヤは何も言わずにうなずき、消えたタバコの先にライターで火をつけそれを吸った。
今度はヒトミがそれをタツヤから受け取って旨そうに吸う。
隣を観ると、黒髪のミミはもう上半身は裸になり、床に膝をついてケンのモノを咥えていた。 ケンはミミの頭を猫を撫でるように触っている。
僕はその光景を目の端に捉えながらミミから渡された大麻を吸うと宙に浮くような感覚になる。
僕は今何を探しているが、それが何か解らないと思う。タツヤが僕を見て、
「効いてきたんだろ?」
そう言う。
「いい感じに。」そう応える。
部屋においはもう気にならず、音が流れている。そう言うことだ。音が入ってきているだけだ。
ボブマーリが大麻で神が降りて来ると言うのなら、酒で神も落ちてくるはずだ。だから大麻に神は居ない。僕はニーチェと似た違う意見を頭の中で述べた。

見つからない人生の答を探す中に毎日の仕事や人との摩擦があって、そこに意味を見いだそうとする、その俺の私生活に音に占領される部屋や畳の匂いが充満する部屋には隣の仲間を気にせず自分のモノを咥え感じている奴らも居て、人目を気にしながら生きると気を張って不器用な人間の生きてる世界だって同じ中に含まれているはずだ。
だから漂いながら何かを探す真似をしても同じという事。
ミミの声が大きくなり、部屋全体に響く。ケンはミミの舐め、ナオはミミの足の間に指を入れて笑っていた。
ミミは叫ぶように大きく喘ぎ、ケンは口でミミの口を塞ぎ、ナミは顔を高揚させながら自分の足の間に頭を埋めるミミの頭を触っている。
タツヤとヒトミはその景色を横目で見て笑っていた。
「おい、笑えるよな。こんな場所でだぜこいつら?」
そう言ったタツヤは喜んでいた。
「なぁ、俺はこんな奴らを見て数えるだけだ。好き勝手生きるつじつまの合わない人間の数をな。」
タツヤから笑顔が消えていた。
「俺たちには誰が気持ち良くなろうが関係ないだろう。」
僕はそう言い、タツヤは俺を見た。そして誰かに肩を掴まれ振り向くと、ナミにキスをされた。
舌が俺の口に入ってきてざらりとした固い苦みを俺の口の中に入れて来た。
それは絡められる2つの舌に挟まれ時間をかけて溶かされていく。
「エクスタシー。飲んで。」
ナミはそう言いながら口を離した。
僕は溶け残ったそれをウィスキーで流し込んだ。
僕の脳みそは痺れている。そう身が体感じたのか解らないが、しばらくすると脈打つ音が外に漏れるくらい鼓動が強くなっている。

 

目を瞑るとある光景が浮かんだ。
何度も夢に見た景色だ。駅のホームでベンチに腰掛けていると顔の無い黒い陰が隣に座る。それは黒くてもちゃんと人の形をしていて、何話さずとなりに座っている。いつも感じていたものが隣に座っている。しばらくして待っていた電車が来ても体は動かない。人の乗り降りと発車のベルをただじっと見て聞いていた。
知らないうちに涙が流れるというよくわからない夢だ。



景色が歪んでいる。僕は頬を叩かれた。
「大丈夫なのーこの子ぉ?」ヒトミがケラケラ笑っている。
ミミの頭が僕の右腿に当たる。ミミがケンに突かれる衝撃が僕の足にも伝わる。
ナミにジャケットを脱がされる。そしてインナーをまくり上げ、彼女は俺の胸に舌を這わせた。
そしてベルトをはずし、ズボンとボクサーパンツを下げて硬くなったモノを手で掴んで自分に入れた。十分すぎるくらいに濡れていた。
ナミは僕の上に乗って擦りつけるように腰を動かす。

ケンが我慢できなくなり、立ち上がってナミの頭をつかんで自分のモノをナミの口に出した。
ナミはそれを拒否するコトなくケンの全てを吸い上げると、こちらを向いて抱きついて僕にキスをしてそれを流し込む。
僕はむせてナミを突き飛ばし、嗚咽を上げてそれを床に吐く。
床の下に落とされたナミは酔ってヘロヘロと床から起き上がり、タツヤやヒトミ、ミミと大笑いしている。

僕はグラスに入ったウォッカを口に含み、両膝両手を床に付き、その混濁したモノを吐いた。
気が付くとケンが前に立って笑っている。顔は赤く興奮していて、嗚咽をあげている僕の腹を蹴りあげる。蹴り上げ、なおも蹴り続ける。
僕は嗚咽をあげながら呻く。そして気分が悪くなり飲んだものを全て吐いてしまった。全て吐き切ってしまえばいい。

僕はよろよろとケンにもたれながら立ち上がり、「触んじゃねえよ!」とケンに言われ突き飛ばされ倒れた。
僕は足元がおぼつかないままもう一度立ち上がり、机の上のウィスキーの瓶を取り、口をつけて底を持ち上げゴクゴクと飲んで口を手でぬぐった。

タツヤがずっとその様子を見ていて、俺に吸いかけの大麻を渡した。世界はエクスタシーと大麻で世界は揺れて、僕の脳みそはまだ床に転がっている。
タツヤはナミを突然殴った。ナミは弾き飛ばされる。それをケンとミミは裸で見て笑っている。

ナミは口が切れて、血の塊を吐いた。ナミはそれでも笑っている。タツヤは口から血を流すナミの髪を乱暴につかみ、チャックを開け、自分の股間にナミの口を近づけ、自分のモノを切れた口に含ませてナミの頭を前後に激しく動かす。ナミがゲホッと嗚咽を上げるのもかまわず、より強く押し付ける。
ナミの両手はタツヤの膝を掴み、ナミは頭を激しく前後に動かされている。僕はその景色をただ眺めた。

自由を奪われ、道具になる女を大麻の匂いを放つ空気と一緒になって、上から見ていた。
ケンはその様子をカシューナッツを口に運びながら眺めていた。活発な少年がたまに見せる澄んだ目をしていた。
俺はよく蹴られる気がする。そう思いながらその綺麗な瞳の少年を見ていた。
ナミは苦しめられたのにも関わらず、愛しい雄猫に頬ずりをする猫のように、達也のソレを綺麗に舐めていた。

僕は吸っていた大麻タツヤに渡し、ドアに向かい歩き出した。ドアを開けた時、後ろから何かを話すヘラヘラしたナミの「またおいでよ」という声をドアと共に閉めた。